AKIRA

 でも、俺が入ってからは、てんで南小へ行っての練習試合が減って、あまり見る事が出来なくなってた。南に新しいテニスコートが出来て、主にそこへ集まってたからだ。

 アキラがわざわざテニスコートに来る事もなくて……ずっと会えなかった。

 そのまま時間だけが過ぎて、俺は五年になってた。地道にテニスの腕を磨いた。ジュニアの練習がなくても、いつも北区にあるテニスコートで、一人で練習してた。

 いつか会う事があったら『格好いい』って言って欲しくて……そう思ってた矢先だ。あれは偶然だった。

 いつものように一人で練習してたんだ。そしたら、フェンスの向こうにアキラを見つけたんだ。

 俺は、アキラより少し身長が大きくなってた。それだけで何だか嬉しかったのを覚えている。

 でも……アイツは泣いてたんだ。

 笑顔のアキラしか見た事なかったから、すごい衝撃を受けた。

 アキラが泣いてる……姉ちゃんみたいに、泣いてる……守らなきゃ、俺が、守ってあげなきゃ。

 そう思ったら、俺はいつの間にか声をかけてたんだ。

「おい」

 内心、俺がビックリした。心臓バクバクで、今にも止まるんじゃないかってほどに。

 アキラは、驚いたように、でも不機嫌に振り向いた。

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