AKIRA


 アキ、ラ?



 驚いて俺はその声の方向を見上げた。教室前の入り口で、男が一人、突っ立って、こっちを、見て、る?

「あ、ああ、悪ぃ」

 そう言って、そいつは後ろから来た女に背中を押されて教室に入って来た。そして、俺の隣の机にカバンを置く。

「あ、私の席、ここだ。アキラと近い、やった」

 一緒に来た女の子は、俺の後ろだ。

 そっと、隣の席の名前を見やった。



『江口 陽』



 これも、アキラって読むのか……知らなかった。

 やべ、心臓バクバクしてきた。

 ふと、視線をあげてみる。アキラは、後ろの女と喋ってる。

「まぁた、木下と同じクラスかよ」

「またって何よ、またって。いいじゃない、これも運命なのよ」

「何が運命だ、頭おかしいんじゃねぇの?」

「おかしくないもん!」

 そんな会話を耳にして、俺の心臓がチクチク痛みだす。

「お? また陽と亜美は同じクラスかよ、仲良いねぇ」

 他の男が二人を茶化す。

 そっか、この二人、仲良いんだ。

「勘弁してくれよ」

 陽は、参った、という風に頭を抱え込んだ。

「いいじゃねぇかよ、お前ら家も隣なんだし、これも縁だと思って諦めな」

 隣、幼馴染か……幼馴染って言うのは、よく漫画じゃ恋人になったりするもんだよな。って、何考えてんだ、俺。

「何を諦めんだよ、ふざけんな」

「なに陽、怒ってんの? いつもなら聞き流す癖に~」

 そう言いながら、この亜美ってやつはまんざら嫌そうじゃない。

「よ、ご両人! そのまま結婚しちまえ!」

「うるせぇつってんだろっ!!」

 陽は机を両手で叩き、立ち上がった。その怒鳴り声で、茶化してた奴が引き気味になる。

「な、何だよ、冗談だろ? 冗談。ねぇ?」

 そいつは、なぜか俺に同意を求めてきた。

「は?」

 なんで俺に振るんだよ。

「さ、さぁ」

 なんて言っていいかわかんねぇよ。俺はちらりと陽を流し見る。ほら、な。何か睨んでるっぽいぞ。

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