AKIRA


 陽は大きな溜息を落として、また席に座る。

 なんか、あれだな。

 亜美ってやつは陽を好きなんだろうな。

 不貞腐れた態度の陽を見て、亜美は少し頬を膨らましてる。で、陽は亜美の事、なんとも思ってない感じか?

 それとも、照れてるのか?

 そうこう思っているうちに、予鈴が鳴り、驚いた俺の肩がピクリと上がる。

 何だ、俺の心臓、爆発しそうなんだけど。

「おはよう~! みんな揃ってるかぁ?!」

 まだ予鈴なのに、やけに威勢のいい担任が教室に入って来た。体育会系か? 真新しい背広に似合わず、色黒の肌。いかにも体育の先生みたいだ。授業になったら竹刀とかもってそうだな。

「よぉし、初日から遅刻はなしだな! 俺がこのクラスの担任の、関口だ。よろしくな」

 関口は教室を見回しながら、入学式の説明を始める。そんな中、まだ、俺の心臓は速いままだ。

 落ち着け、俺! こんなに大きな音じゃ、聞かれるような気がして怖い。いや、聞こえるのは俺だけで、絶対に相手にはわからないんだろうけど……。

そうだ、わかる訳ないんだ。

 俺が――……俺が、あの時のアキラだって事……そうだよ、覚えてるはず、ないよ。

 あ、なんか苦しくなってきた。俺、なんかおかしい。でも、原因はわかってる。



 だって、だって――……。



 今一度、俺は視界の隅に映る、隣のアキラを見流した。通った鼻筋に長いまつ毛、シャープなフェイスライン。

 俺はわかるよ。アキラ。

 五年の時に恋してた奴が、今、隣の席に座ってるって。

 お前はあの時のまま、格好良くて、柔らかい瞳で、優しい声をしてる。変わってないよ、アキラは……全然、変わってない。

 あの時のアキラは、俺の事、男として見てたもんな。だから、今、女の制服着てる俺を、あの時のアキラだって、わかる訳ないんだ。

 でも、さっき教室に入る前に、俺の事を見てたのは気のせいか?

 もしかしたら、俺の事、覚えてるのか?

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