AKIRA

 で、俺は今テニス部の見学に来てる訳なんだが……何だ、このギャラリーの多さは。

 適当に数えても絶対に二、三十人はいるよな。陽が打つたびにきゃあきゃあ叫んで、うるさすぎる。よくもまぁこんな中で練習に集中できるよな。

 手前に男子コートが四面、その奥に女子のコートが四面。

 まさか、これみんなマネージャー狙いか?

「嘘だろ」

 思わず口に出てしまう。

「やっぱ格好いいよね」

 なんて語尾にハートマークでも付いてそうな甘い声で、周りが囁いてる。

 当たり前だ、陽が格好良くない訳ないだろ。

 アイツは、格好良くなったよ。前よりもっと、男らしくなった。

 だから、俺もアイツにくぎ付けになるよ。陽のフォームには乱れがなくて、無駄がない。やっぱすげぇや、陽は……と、まさか、こっち見てる?

 さっきから、何度か、ちらちらと見てる気がする。

「ねぇ、なんか江口君、さっきからこっちばっかり見てない?」

 お隣のギャラリーさんも気付いた様子だ。やっぱ、見てんだ。まさか、俺?

 って、んな訳ねぇよな……でも、少しくらい勘違いしてても、いい、か?

 駄目だ、苦しい……胸の奥がキュってなる。やべぇ。

「だって、あの子がいるもん」

「あの子って?」

 俺の心の呟きのように、もう一人が聞く。



「ほら、あそこ……」



 そう言って、そいつが目配せで、俺の隣の隣の、そのまた隣の……亜美だ。

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