AKIRA
「江口」
啓介が脹れっ面で言った。
あ、陽っ?! 何でここに居んの?
「何だよ、江口。今、いいとこなのに」
いいとこってなんだよ、いいとこって。変な誤解されんだろうがっ!
つか、腕組みして俺らのとこ睨んでる陽が、怒ってるっぽいのはなんでだ?
「さっさと部活戻れよ、さぼんな、服部」
そ、そういう事か……。
「へぃへぃ」
渋々といった様子で、舌打ちをした啓介が、部活に戻ろうとする陽の後を追う。すると、陽がふいに振り向き、今度は俺だけを睨んだ。そして、歩み寄ってくると、俺を見下ろす。
俺もでかいけど、陽は更にでかい。威圧感あるんですけど。
「な、なに?」
「アキ、お前もいつになったら部活入んだよ」
「は?」
とぼけた声を出したのはわかってる。わかってんだけど。
「痛ぇ!」
陽が俺の片耳を摘みあげた。
「なにマネージャー候補のギャラリーに混ざってんだって聞いてんだろ!」
ぐぁんぐぁんする。
耳元で陽が叫んだせいで、俺の耳が、耳が。
で、でも、何でテニス部入るって知ってんだ?
「なんで……」
そう言いかけて、陽が手を放した。
「先生の机に、お前の入部届けがあったから言ってんだよ」
そう言って、陽は「早めに入れよ」と、付け加えて、部活に戻っていく。
「行くぞ、服部」
そして、歩きざま振り返り、俺に向かって舌を出した。
陽の背中が離れてく。
「わかった」
「え?」
陽ばっか見てたから、啓介の存在忘れてた……。
「な、何がわかったって」
「今度から、俺もアキって呼ぶ。それならいいだろ? ラは言わねぇよ」
「は? 何で?」
「アイツが、お前の事、そう呼んでたから」
そう言って、啓介も「じゃ」と肩腕をあげて、部活に戻っていった。