AKIRA

 そりゃそうだろ、晶はいつまで経っても部に来ない。やっとで来たと思ったら服部の手を引いて消える。その上、俺の晶にデコピンだと?

 この状況のどこに、俺の心を救う余地がある。

「江口」

 服部が言った。勿論、晶自身も驚いている様子だ。

 なんだよ、俺が来たらやっぱまずかったのかよ。

「何だよ、江口。今、いいとこなのに」

 このやろう……なにがいいとこだよ、ふざけんな!

「さっさと部活戻れよ、さぼんな、服部」

 俺は腕組をしたまま、服部を睨みつけた。

「へぃへぃ」

 服部は、渋々といった様子で舌打ちをする。

 そうだ、そのまま晶から離れろ。

 俺は、服部を呼びに来た状況になっている。このまま何もないなら退散するしかない。そう思って、部に戻ろうと踵を返した。

 それでも治まらない何かが残る。晶の気配を背に、苛立ちは消えない。

 このままでいいのか? 俺は、ここに何しに来た?

 何があったかは分からない。

 服部と仲良くやってるのかと思ったら嫉妬した。

 だから邪魔してやろうと思った。

 でも、長田がいた事で二人っきりじゃないとわかってホッとした。

 そしたら、別のモヤモヤが残って……。



 俺は、再び晶に振り向き、歩み寄った。

 そして、晶を見下ろす。

「な、なに?」

 なに、じゃねぇよ。

「アキ、お前もいつになったら部活入んだよ」

 一番聞きたかった事だけど、アキ……そう名前を呼ぶだけで、心が締め付けられそうになる……晶……心ではそう呼べるのに、もどかしい。

 本当に昔の事は、消したいとか思ってんのか?

「は?」

 なにとぼけた声出してんだよ。何か意外な事でもあんのかっつうの。

 ただでさえ、お前の名前をまともに呼べなくてイライラすんのに、これ以上、俺を振りまわすなよ。

 俺の事を隠そうとしてるのか、避けようとしてんのか、それとも本当に覚えてないのか知らねぇけどな。

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