AKIRA


「はい、一応、経験はあります」

「そう、どこの中学?」

「宮西です」

「宮西?」

 平塚先輩の顔色が変わったのが手に取るようにわかる。

 京子は知らなかったみたいだけど、テニスしてる奴なら、宮西つったら知ってる人がほとんどだろう。

 中学では全国大会当たり前に出場してて、いつもベスト四には入る強豪だからな。

「宮西って、あの宮西?」

「あのって言われても、多分あってると思いますけど……」

「千葉の宮西東部中?」

 そうそう、だからそれだって。何回言わせんだよ。

「はい」

 それでもそこはぐっと我慢して頷いた。隣の一年も、先輩方のざわめきも増す。まぁ、中にはきょとんとしてる奴もいるけど、それは多分、中学でテニスやってなかった奴だと思う。

 それこそ明らかに、男子目当てじゃね?

「宮西の加藤って、シングルで去年優勝した、あの加藤晶?」

 おっと、ここで本名出たよ。でも、男子には遠くて聞こえないだろ。

「はい、そうです」

 平塚先輩の瞳の色が、輝いていくのがわかった。

「あなた、何でここに居るの?!」

 がっしりと両肩を掴まれ、前後に振られる。先輩、ちょ、気持ち悪いんですけど。

「いえ、親父の、いや、お父さんの転勤で、この春から、ここに」

「そ、そう。どうりでどっかで見た顔だと思ったわ……」

 平塚先輩は、勢いよく先輩方に振りかえるとガッツポーズを決めた。

 みた事ある顔、か。

 まぁ、男子と女子のシングルじゃ、コートも違うし陽は俺の事、知らないだろうな。



 でも俺はずっと、陽の事を見てた。


 こっそり男子の応援に行く振りしてさ、いつも陽を応援してたっけ。

「木下といい、加藤といい、ウチに主力メンバーが揃ったじゃない! ああ、今年こそ、あのにっくき前島に勝てるかもしれないわっ!」

 ああ、この人テニス好きなんだな。

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