誠-巡る時、幕末の鐘-




「ハァーーッ。めんどくさいなぁ」



 暗闇の中、一つの影がぶつくさと愚痴(ぐち)を言いつつ歩を進めている。


 なぜか男物の墨染の衣に身を包んだ星鈴だ。


 これがまた、(さま)になっている。


 邪魔にならないよう高く結った長く美しい黒髪が、春風に遊ばれ、サラサラと波打つ。


 白磁(はくじ)の陶器のような肌は、どこか中性的な(なまめか)しさを感じさせる。


 これが昼間であったならば、すれ違う人々はもう一度必ず振り返ることだろう。


 しかし、星鈴はそんな自分の容姿のことなど全く気にしてはいない。


 彼女が現在進行形で気にしていることといえば、ただ一つ。


 
(そもそも、私は第六課で、今は薬草管理が主な職務。

 それを出張で妖調査なんて、お(かど)違いもいいところでしょ。

 こういうのは第五課の諜報係の仕事か、思い切って戦闘部隊の第三課の仕事じゃない。

 まぁ、ほんの百年程前にもリュミエール様――ミエ様達としばらくの間ここらに住んではいたけども。

 だからって……これには絶対、誰かの陰謀が)



 その答えに、あてがないわけではない。


 その中でも目星をつけていると、ここから少し離れた場所から妖の気配がした。


 それと同時に、風に乗って叫び声が聞こえてくる。


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