誠-巡る時、幕末の鐘-



「子供みたいなことを言うな。それともあの頃みたいに、おぶって連れて行こうか?」




奏の瞳がスッと細くなった。




「あの頃にはもう戻れない。私は……私はもうあそこにいた私ではない!」




奏は叫んだ。


一瞬辺りの景色が揺らいだかと思ったら、もうそこに奏の姿はない。


いくら探ってみても見つからなかった。




ハァ〜ッ




鈴は奏が消えた辺りに立つと、大きな溜め息をついた。




「……消えた……か。紫翠に怒鳴られるに帰るか」




そう言い、闇夜の(とばり)の向こうに消えていった。


辺りはすでに暗い闇に包まれる刻限になっていた。



……見つかってしまったらもう逃げ隠れすることはできない。



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