誠-巡る時、幕末の鐘-
(ヤバい! 近くに人がいるなんて!)
星鈴は風をきって走りだした。
長い黒髪が風になびいて宙を舞う。
(お願いだから、間に合って)
辺りがどんなに暗闇に包まれていようとも、人外ならばこそ、人よりも遥かに夜目も利くというもの。
その夜目を活かしつつ気配を辿ると、道端に座り込む少年を見つけた。
そのすぐ目前で、ドロドロと肉崩れを起こした妖が少年の行く手を阻んでいる。
最悪の場合もあり得た。
だからこそ。
(良かった。まだ生きてる)
そう思うのは、目の前の妖が完全に少年だけに狙いを定めているせいだ。
「……っ」
無理もないが、余程恐いのだろう。
少年の体はガタガタと大きく震え、言葉を発することを忘れた口からはカチカチと歯がぶつかる音だけが聞こえてくる。
(……対象は、妖になり損ねた紛い物、か。
醜い姿になったものね)
星鈴は腰に差した刀に手をかけ、妖と少年の間に立った。