誠-巡る時、幕末の鐘-
『…っ!!』
どうやら漢詩を嗜(タシナ)まなくても知っていたようである。
まぁ、京都にいれば有名なので当然と言えば当然なのだが。
「それにしても何故こちらへ?」
「懐かしい気があると思ってな。少し顔を見に行くかと思っただけだ」
ミエはそう素っ気なく言われてもニコニコしていた。
「それはありがたき幸せ。恐悦(キョウエツ)至極にございます」
そして篁の側へ行き、片膝をつき、深く頭を下げた。
「……よせ。気持ち悪い」
篁は本当に気持ち悪いものを見たかのごとく、秀麗な顔を歪ませた。
「気持ち悪いとは…悲しいことを。では、どのようにせよと」
ミエは着ていた着物の袖で涙を拭う…フリをした。
それを見た篁以外の者は(あぁフリなのね)と思ったのは言うまでもない。
しかし、篁は慣れているといった感じでそれを黙殺した。