誠-巡る時、幕末の鐘-
「確かに仕方のないことだな。では、私は貴船に戻ろう」
「ご報告の際には特上の酒を献上いたします」
「楽しみにしておこう。ではな」
次の瞬間、今まで辺りを満たしていた神々しいまでの神気が一気に霧散した。
「奏、奏」
(ん? 平助か?)
「なぁ、さっきのや…方は?」
(お前、今、奴とか言いそうになっただろ)
「あのお方は…ほら、あそこに鎮座なさっているご祭神だ」
船岡山よりも向こう…貴船を指差した。
「…鞍馬かい?」
井上が目を細めながら指先を追っていた。
「いや、貴船ですよ。鞍馬は鞍馬天狗でしょう? 貴船の龍神様です」
やっと今さっきまでいた人物…神様が誰なのか分かった土方達は、自分の態度に非礼がなかったかどうか考えた。
まぁ、考えるまでもなかった。
神気に圧倒され、動けなかったのだから。