誠-巡る時、幕末の鐘-



その瞬間、どこからか桜の花吹雪が起きた。


奏の姿が桜の花びらに包まれ、響には儚げに見えた。


まるで消えていなくなってしまうような。



少し裏道を歩くと立派な一本の桜の木が満開に花を咲かせていた。




「あぁ、桜か」


「綺麗ですね」




奏は何かを思い出すように桜をしばらく眺めていた。




「奏?」


「ん? あぁ、行こうか」




響は奏がこちらを向く一瞬、悲しみが顔に出ていたことに気付かないフリをした。


二人がその場を後にしようとした時…。




「響?」




まだ若い男の声が響の名を呼んだ。




「…っ!! 父様っ!!」


「やはりそうか。何故ここに…」




声に振り返ると、父親にしては若い男が立っていた。


響と父親は固い抱擁(ホウヨウ)を交わした。


奏はその姿に、自分と今は亡き雷焔家当主である父親の姿を重ねていた。


しばらく二人の会話を聞いて頭を振った。



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