誠-巡る時、幕末の鐘-
すると、先程奏がいた枝の方から声がした。
「ここだ」
見ると、斎藤が一人、幹に寄りかかって酒を飲んでいた。
「私もそっちに行っていいですか?」
「あぁ」
斎藤の了解を得た後、慣れた手つきで木を登った。
「すみません。下が騒がしくて」
「まったくだな。……だが、こういう騒がしさも悪くはない」
斎藤はそう言うと微かに笑った。
(さ、斎藤さんが笑った! 超珍しいんだけど!)
「奏、手を出せ」
いきなり斎藤に言われ、戸惑いながらも手を出した。
斎藤は着物の袖を探ると、何かを取り出し、奏の手の上に置いた。
(わぁ〜可愛い!)
それは桜があしらわれた簪だった。