誠-巡る時、幕末の鐘-
「……どうして僕は名前で呼んでくれないのかな?」
響を除いたみんなが、その腹黒さのせいだろ、と思った。
「俺も土方さんだぜ?」
土方も名前で呼ばれていないのだ。
別にそれはそれで構わないのだが、少し頭にくる。
「土方さんは仕方ありませんよ」
「ん? どうしてだ?」
「だって土方さん……奏ちゃんのこと、苛めてるでしょう?」
似たことを沖田に対して思い、言わなかった言葉を沖田は軽々と言った。
しかも笑顔で。
スゥ〜ハァ〜ッ
長年の経験から沖田への対処はバッチリ心得済みである。
まず、深呼吸。
その後、優しくさと……
「総司ぃぃぃっ! 今日という今日はてめぇの奥歯ガタガタ言わせてやるっ!」
すことは無理だ。
悟すことができるのは近藤だけ。
土方が刀を振り下ろしたのを、沖田は笑いながらかわし、三馬鹿は囃子たてた。
斎藤は我関せずを貫き、響はそれを楽しそうに眺めていた。
爺は……
「奏様、本当によろしかったんでしょうか……」
と、屯所に戻った自分の主を思い浮かべていた。