誠-巡る時、幕末の鐘-

夜の散歩




―――日暮れ後、屯所




「右よ〜し、左よ〜し。……ついでに上と下もよ〜し」




(どこに烝がいるか分からないからね。

私に門番?)


フッ


(意味な〜いね!!)




「……慣れたな。さて今日は…近場で穏便に終わらせよう」




暗闇の中で、天に向かって拳を突き上げるのが馬鹿らしく思えた奏であった。



奏は墨染の着流しに身を包み、愛刀を腰に差していた。



今、噂の的である女の幽霊は……奏だ。




「あの目、完全に疑ってたもんな。まぁ当たってるけど」




昼間見た土方と沖田の目を思い出し、奏は一人呟いた。




(まったく…尋問まがいのことまでしやがって。

私の陶器のような心に傷が入ったらどうするんだ…)




奏は自身の岩のように固い心を心配した。


それなら元老院にいる時にとっくに傷どころか粉々に砕けちっている。


世界一固いものよりも固いだろう。



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