誠-巡る時、幕末の鐘-
(そういえばまだ何も聞いていなかったな)
「名は?」
「え? ……あ、音無響です!」
(……音無、だって?)
昔々のことだが、星鈴は少年と同じ姓を持つ者達に随分と世話になっている。
彼らと同じ姓を久し振りに聞き、懐かしさがこみ上げてきた。
(会いたい、な。会えるものならば)
本当は、このままこの場を去ってもいい。
いや、妖も連行させたし、去るべきなのだろう。
けれど、星鈴は目の前の少年に対して、名前もさることながら、何らかの縁を感じ始めていた。
「俺の名は星鈴。……お前は何故、ここにそんな格好でいる?」
今の星鈴が着ている着物は、墨染の男物。
つまりは、男装である。
だから、一人称は〈俺〉。
言葉使いもそれに準じている。
そして、目の前にいる少年もまた……。
「……え?」
(おいおい、とぼける気?
無駄な事をしたがるのが人間だったっけ?)
星鈴は言葉を続けた。
「えも何も……お前は女だろう?」
すると、少年ーーいや、少女の顔から一気に血の気が失せていった。