誠-巡る時、幕末の鐘-
一回酷い目にあったことはよしましょう
――屯所前
「お待たせ、栄太。お母さんの具合はどうだ?」
「うん! 凄く良くなったよ! ありがとう!」
少し前に病を患っているという栄太の母親に、薬を調合して届けたのだ。
良かった……効いたのか。
人間への薬は調合が人外のものとは違うからな。
大分手間取った……。
手間取ったといっても、たったの三日足らずなのは、さすが元老院第六課薬草管理担当と言うべきだろう。
「……今日は桜を見に行かないか?」
「桜? いいよ!」
栄太の元気な言葉に、奏はようやくいつもの笑顔を取り戻した。
「じゃあ行ってきます。土方さんに日暮れまでには帰ると伝えてください」
奏は今まで栄太と遊んでいた藤堂達に土方への伝言を頼んだ。
直接本人に言うというのは、はなから奏の選択肢にはなかった。
「あ、あぁ。分かった」
「行ってらっしゃい」
「行ってきま〜す!」
栄太は奏に手を引かれ、藤堂達に空いた方の手で手を振った。
藤堂達も栄太ほど元気よくとはいかないが、軽く手を振り返した。