誠-巡る時、幕末の鐘-
「我らは鬼。人の中に紛れこんでその誇りをなくすか?」
「……」
爺は黙って奏の方を見た。
爺自身も里の復興は悲願であるのだ。
その瞳は、微かに揺れていた。
「それとも何か? ずっと一緒にいられると錯覚でも持っているのか?」
「……っ!」
奏は目を見開き、刀を握る手を固くした。
キリキリと握られる手は肌の白さを一層際立たせている。
「この桜は何百年、何千年。だが人の命なぞ百年にも満たない」
紫翠は煙管を取出し、火をつけた。
そして、フゥと紫煙を吐き出した。
「なのに最期まで共にいられると思っているのか?」
「貴様……っ! 奏様! 風戸の言葉に耳を貸してはいけません!」
鈴の言葉に惑わされたものの、やはり主第一の爺は奏を守るように一歩前に出た。