誠-巡る時、幕末の鐘-
「……それでも……今はいる。未来がどうなるかは分からない。でも今この瞬間は生きている。それで十分だ」
奏は紫翠に目線をしっかり合わせて言った。
その瞳には強い意志が宿っている。
「綺麗ごとだな」
奏の言葉を紫翠はそう一蹴した。
「風戸の当主であろうと奏様を侮辱するものは許しません!」
爺が殺気を隠すことなく周囲に撒き散らした。
「爺、手を出すな。……退け。元老院の者が来る前に」
「奏様!? このまま元老院に引き渡せばいいのでは?」
爺が納得がいかないというように奏に提案した。
「いや。ここでこの二人が元老院に捕まれば、風戸の里の者が雷焔の里の者を躍起になって捜し出すだろう」
風戸は雷焔の里を滅ぼしたとされ、元老院から里から出ることを禁止されている。
にもかかわらず二人はここにいる。
「もうこれ以上雷焔の里にいた者達を苦しめたくない」
奏は幼い頃可愛がってくれた里の者達の顔を思い出し、顔を歪めた。