誠-巡る時、幕末の鐘-
「爺、ありがとう」
奏はそう言いながら、爺の手を早々に外した。
「いいえ。礼には及びません」
意外に鈍感なのか、はたまた恥ずかしくて周りが見えなくなったのか……。
爺は飛んでくる殺気をものともしなかった。
爺はある意味この中で最強だろう。
「栄太や桜花は?」
いつもなら一番に抱きついてくる栄太がいない。
「栄太なら家に帰らせたぜ?」
「桜花なら……」
「あの子猫なら今、響が家に連れ帰って餌を与えていますよ」
爺が子猫の所在を明らかにした。
「そうか」
どうやら飼ってもいいらしい。
気がかりだっただけに安心した。