誠-巡る時、幕末の鐘-



「…さっさと去れ。私は…」


「いずれ奏は返してもらう」




奏の意志をまったく無視した、迷惑な言葉である。




「奏様は雷焔家の方です!!風戸になんぞ!!」


「双子の兄は差し出しておいてか?」


「…っ!!」




爺は奏の方を心配するかのように見た。


まるで、何かを思い出してしまうのではないかと恐れているように。


奏は…双子だった。


そして双子の兄は…。




「爺おさえて。…今日は私に会いに来ただけなんだろ?ならばもう去れ」




幸いにも奏には聞こえていなかった。


爺は一人心中で安堵した。




「今は忙しい。そしてずっと忙しい」




刀を鞘に戻すことはせずに、紫翠を睨み付けた。




言外にもう来るなと言ってるんだが。


伝わるだろうか。


怪しいもんだな。




奏は紫翠と鈴が帰るのを今か今かと待っているが、二人は一向にそんな素振りを見せない。



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