誠-巡る時、幕末の鐘-
「い、命だけは助けてくれ!!私が悪かった!!」
男が勢いよく土下座をした。
頭を地面にこすりつけんばかりだ。
「そうか。自分の非を認めるのだな。お前、名は?」
「中谷長次郎と申す」
「お前だけを許せば他の者はどうなる?」
奏は気絶している二人を一瞥した。
「それはもう過ぎた事」
「……ほう」
男が俯きながら言った。
奏は面白いものを見つけたかのように目を細めた。
その目はまるで肉食獣が、餌を見つけた時の目だ。
「部下を犠牲にしても構わぬか。…近藤さんならばどうする?」
近藤は顔をしかめた。
「私は仲間を部下だとは思っていない。仲間は助ける。それだけだ」
「…さすが。もしそれ以外ならば私は見限ってここを離れるところだった」
奏は近藤の言葉に満足げな笑みを浮かべた。
実際そのつもりだった。
ここにいるのに彼らの人柄が好きだという以外に理由はないのだから。
それが無くなったらここを離れるまで。