誠-巡る時、幕末の鐘-
(……あ、しまった。
人間の身体は脆いから、ちゃんと死なないようにとどめを刺さないと)
「て、てめぇっ! よくもやりやがったなっ!」
男が凄んでくるが、星鈴にとって、幼子が癇癪を起こしているのと似たようなもの。
動じる素振りは一切ない。
むしろ。
「今、お前が言いかけたこと、謝罪するなら手加減してやる。土下座つきで謝罪な」
(許すつもり? 毛頭ない)
星鈴の背後で、見えないはずの雪が吹雪いてる。
豪雪地帯の雪山もかくや。
今は三月の終わり。
空には雪雲どころか、雲一つない。
だが、響にはしっかりとその光景が見えた。
が、頭に血が上った男達はそうではなかったらしい。
「だ、誰がするかよ!」
「おうさっ! 逆に貴様がやりやがれっ!」
「俺達を誰だと思ってる!?」
「この国を変える攘夷志士様だぞ!?」
さっきまで呆然としていた男の仲間も一緒になって叫び始めた。
(……攘夷志士?
知らんな。
だからどうした。
攘夷志士だから、自分達は偉いんですってか?
……人間風情が、調子にのるなよ)