誠-巡る時、幕末の鐘-



だが、この石田散薬という薬、こればっかりは普通ではなかった。




「み、水か?」


「やめといた方がいいぜ?」


「さ、酒でいい!!だから早くくれ!!」




藤堂や原田の制止の声も聞かずに、中谷は酒に手を出そうとした。


目の前にこの腹痛を治す薬があるのだ。


痛みからは早く解放されたい。




「薬は水です!!」


「分かった」




奏はさっと奪い去り、中谷の伸ばした手は宙を彷徨(サマヨ)っただけになった。




『石田散薬を水で…』




永倉、藤堂、原田は顔を引きつらせ、中谷の背をポンと労るように叩いた。


思いっきり同情を寄せている。




「何だ、お前ら。あいつを可哀相な目で。何か文句でもあんのか?」


『いいえ、何でも』




土方の鋭い瞳と声に、三人は口を揃えた。


響は状況が掴めず、オロオロするばかりだ。


沖田は内心笑い転げていた。




(あれを水でかぁ。奏ちゃんも面白いこと思いつくなぁ〜)




大層満足満足。



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