誠-巡る時、幕末の鐘-
「…実はまだ怒ってたんだな」
「あ、あぁ。それも結構」
「最初から許す気なんかなかったと思うぜ?」
永倉、藤堂、原田が肩を寄せあって、ヒソヒソと話していた。
だが、奏は耳がいい。
「そこ。また何の話かな?」
『何でもありません!!』
奏に再度恐ろしい笑みを見せられることになった。
顔が整っている分、怒らせたら恐いのだ。
笑顔でならばなおさら。
すぐ謝る。
それが奏を刺激せず、自分への被害が最小限におさまるいい方法だ。
奏は三人から目を離し、中谷の方に顔を向けた。
「“中谷長次郎”。お前は私に名を告げた。それは命運をも握ったのと同じこと」
再び重苦しい口調で話し始めた。
「はっきり言って私はお前が大嫌いだ。近藤さん、主、両親を侮辱し、菓子は泥塗れ…」
近藤さんを見て、目を伏せた。
そして、パッと何かを思い出したように目を開けた。
「…しかも忘れそうになっていたが風戸の侵入も許してしまった。最悪だ」
奏は表情を歪めた。
そればっかりは、この男の所為ではないような気がするが…。