誠-巡る時、幕末の鐘-
「この…たかが旗本の分際で。言い忘れていたが、私のニ番目に嫌いなものは、親の栄光をまるで自分のもののように振る舞う奴だ」
みんなの顔つきが一瞬で変わった。
今まで苦笑した顔が真剣なものになったのだ。
「自分の力では何も手に入れてないくせに、下の者にあたかもそのように振る舞う」
奏は近藤達のことを考えていた。
彼らは自分達の実力でここまで来た。
屋敷であれよこれよと育てられていた旗本達とは違う。
(お前達など…私の部下どころか、近藤さん達の足下すら及ばん)
意外と奏はみんなのことを考えていた。
行動と言動で示さないだけで…。
「はっ!!笑えるな。明日から武士をやめろと言われれば何もできなくなるくせに」
奏…お前って奴は、と感動していたが、雲行きが怪しくなってきた。
「いっそそうしてやろうか。死ぬことより辛い屈辱だな。元旗本と陰で笑い者にされる」
奏の姿が道場の窓から入ってくる光で、後光のように照らされている。
この時以外ならば素直に後光だと思えたかもしれない。
誰も今はそうは思えなかった。