誠-巡る時、幕末の鐘-
「いいじゃないか。楽しそうで。少しは性根を改めるだろう。上に立つ者として相応しくなったら戻すように進言してやろう」
むしろ、鬼が魔性の気をバンバン放っているようにしか見えない。
「爺、紙と筆と墨。今から将軍に文を書く」
爺がそれらを取りに行こうと腰を上げた。
道場を出て行こうとすると、袴の裾を中谷が掴んだ。
「ま、待ってくれ!!た、頼む!!それだけは!!」
「そこに転がっている…ほれ、こいつらはどうする?手足が斬られれば武士として辛かろう?」
必死に、それだけは、と懇願する中谷に窓の外を指差し、呆れたような顔をした。
「家に手当てを出す!!だからどうかっ!!」
中谷は腹の痛みも忘れて叫んだ。
痛みも興奮すれば忘れるみたいだ。
「最初の尊大な態度はどうした。全く、自分より上だと分かると手の平返したように」
奏は響の肩に手を回し、背中に引っ付いた。
土方達は思った。
(従姉妹で、同じ鬼なのにどうしてこうまで性格違い過ぎるんだ?)
響に感謝したくなった。