誠-巡る時、幕末の鐘-



 掴まれていた響の手首の様子を見ようと、星鈴が男達に背を向ける。


 その瞬間を見計らっていたのだろう。



「……ちっくしょぉ! この野郎っ!」


「あ、危ねぇ!」


 野次馬をしていた男の一人が声を上げた。


 倒れていたはずの男が、自分の刀を星鈴の方へ向けてきたのだ。



(チッ。まだやる気か。

 ()りるって言葉を知らないのか)



 星鈴は振り向きざま、もう一度刀を振おうとした。


 ……が。



「武士なら引き際を悟るべきでしょ?」


「は?」



 その一拍の後。


 
「……ギャアァァッ!」



 星鈴が振り向いた先には、刀を抜き放った長身の青年が立っていた。


 そして、先程の男が再び地面に倒れこみ、もんどり打っている。


 押さえた肩からは、血が大量に噴き出ていた。


 男を斬ったのはこの青年で間違いない。


 聞かずとも、青年の手に握られた刀から(したた)り落ちる血の(しずく)が物語っていた。


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