誠-巡る時、幕末の鐘-
「ほら。熱燗(アツカン)だ」
斎藤が三人に熱燗を持ってきて差し出した。
『プハァ。助かったぁ!!』
三人は息を揃えて言った。
「…石田散薬の効き目が出たのか?」
「さぁ?あの時は、ただ水で飲ますとどうなるかっていうのを見たかっただけ」
斎藤の、さすが石田散薬、という眼差しを流した。
斎藤はその言葉に不満そうにしたが、三人も中谷も治ったので効くのだと思った。
こうして、また新たに誤った見解が斎藤の中に生まれた。
誰か絶対、誤解を正してやった方がいい。
「その薬自体は強くないよ?最初に軽い痛みを感じたのが本当の薬の作用で、後のは全て幻覚」
奏は酒のつまみをパクっと食べ、さらりと言った。
『…お、鬼』
「鬼ですが何か?」
『そ、そうだった…』
不毛なやりとりだ。
鬼に鬼と言っても痛くもかゆくもない。
こうやって一緒にいると忘れてしまう、本当に鬼なのかと…。
それほどまでに人間じみている。
甘味を毎日暴食する鬼を鬼と思えようか。
少なくとも、自分達が想像していた鬼の姿は脆(モロ)くも崩された。