誠-巡る時、幕末の鐘-
梅雨時の迷い
優しさは時に重みにもなる
―――五月某日
ポンポン
「これでよし」
鏡台の前で何やら一人の少女が化粧を自らに施している。
出来に満足したようだ。
口元が綻んでいる。
スッと障子が開き、青年が一人静かに入ってきた。
「珠樹…。女に身をやつして、化粧までしてどこにいくつもり?」
女に身をやつして、と青年が言う通り……少女は少年だった。
少年と言っても、もう後二、三年すれば青年の域だろう。
「彼方兄上には関係ないよ。じゃあ、僕は用があるから」
珠樹と呼ばれた少年は、冷ややかな視線を青年に投げ、部屋を出ていった。
彼が行く場所は分かる。
何故ならば、自分も行こうと思っていたからだ。
弟の動向を探ってからと思って立ち寄ったが、やはり彼も行くつもりだったようだ。
「奏……やっと」
彼方……雷焔彼方は、壬生にいる妹の姿を頭に思い浮かべ、そう呟いた。