誠-巡る時、幕末の鐘-
もしかして、目の前のこの男に一服もられたかと妙な勘繰りも起きてしまう。
「とにかく。もう添い寝はいりません。自室にお引き取りを」
「そんなこと言って……まだこんなに熱があるのに」
そう言って、手を奏の額に当ててきた。
「これくらいの熱、何ともない」
奏が淡々と返すと、沖田は笑顔を歪ませ、少しばかり淋しそうな目になった。
「……少しはさ、僕達のこと頼ったら?」
珍しく真剣な声を出したと奏が何も言えずにいると、バタバタと何人かの足音が聞こえてきた。
「奏。総司は……っ!!」
音をたてて開けられた障子の前に、永倉達の口があんぐりと開いた顔があった。
仕方ない。
部屋の中は、布団一枚の中に奏と沖田がいて、沖田の手が奏の頬に伸びている。
誰がどう見ても、そういう場面だった。
『そ〜う〜じ〜』
地を這(ハ)うような声が沖田の名前を呼んだ。
次の瞬間、部屋に入ってきた永倉達によって沖田は布団からつまみだされた。
本人はとっても不満顔だ。
対する奏は、安堵の表情を隠しもせず、全面に出した。