誠-巡る時、幕末の鐘-
「新八さん、左之さん。痛いんですけど」
沖田は二人に着物の襟首をつかまれ、動けずにいる。
「おっまえ!!朝から姿を見ねぇと思ったらここにいやがったか!!」
「いちゃ悪いですか?」
『悪いだろ』
その場にいた全員の言葉が重なる。
沖田以外のだが。
「奏の具合がまた悪くなったらどうすんだよ!?」
「あんたは自分の欲に正直すぎる」
藤堂と斎藤も、永倉と原田の後ろから顔を出して続けざまに言った。
「……口論ならここから出てしてくれない?」
奏の一言にみんな押し黙った。
鬼とはいえ、怪我もすれば病にもかかる訳で…。
なんとかして早く治さなければと思っているのにこの始末。
「爺と響が戻ってくる前に治したいんだけど」
今、雷焔家の側近とその娘は江戸に行っている。
今は亡き爺の妻、つまり輝耀の命日が近いそうだ。
本当は奏も行きたかったのだが、この調子では邪魔にしかならない。
病の身であることを何とか隠し、親子水入らずで江戸まで行かせた。