誠-巡る時、幕末の鐘-
気づいた鬼と気づかぬ鬼
―――市中
「奏お姉ちゃん、具合悪いの?」
栄太が心配げに目を向けてくる。
「もう大丈夫。私は丈夫だから……栄太のお母さんはどう?」
「もうすっかり仕事場に馴染んでるよ!!」
病がちだった母親も、今では元気に仕事に精をだしているらしい。
以前会った時に、随分と薬の礼を言われた。
「そっか。今日は……っと。栄太、こっち」
「え?うわっ!!」
栄太の脇を抱き上げ、店と店の間の路地裏に隠れた。
「もごもご……」
「あ、ごめん」
なんとなく、無意識に口を塞いでしまっていた。
「ぷはぁ〜!!…どうしたの?」
「いや、何でもない。行こう」
「ちょっと待って」
奏が栄太を下ろし、足を進めようとすると、後ろから声をかけられた。
「何で奏ちゃんがここにいるの?」
「屯所で寝ているはずではなかったのか?」
諦めて振り向いた先には、仁王立ちしている沖田と斎藤がいた。
沖田は笑顔だが、目が全く笑っていない。
斎藤も表情にこそ出さないが、静かに怒っている。