誠-巡る時、幕末の鐘-
「あ、総司に一!!」
栄太が手をヒラヒラと振る。
いつもは振り返したり、何かしら言ったりする二人も今は無言だ。
その様子から感じ取り、奏と二人を交互にキョロキョロと見た。
奏も無言を貫いた。
とうとう痺れを切らし、沖田が口を開いた。
「ほら、屯所に戻るよ」
「もう大丈夫だって。近藤さんにも言ってきたし。栄太と遊ぶんだよ」
「子供のようなことを言うな。栄太、今日は奏を連れて帰るがいいな?」
「え?…あ、うん」
一瞬淋しそうな目をしたが、笑顔を見せ、家の方に帰っていった。
斎藤は栄太に悪いことをしたなと思ったが、こちらも大事。
仕方がないといえばそうなのだ。
「じゃあ、戻るよ」
「離せ〜」
栄太の姿が通りを曲がり見えなくなった後、沖田は奏の腕を掴んで引っ張った。
奏も意地になって足を踏張ったが、ズルズルと引きずられるだけだ。
鬼と言えども、所詮男と女。
力が違う。
たとえ剣の腕は自分達より上だとしてもだ。
それを見て、二人は深い深い溜め息をついた。