誠-巡る時、幕末の鐘-
「あ、ここですよ」
目的の店に着いた。
「どうもありがとうございました」
「いえいえ。私もお喋り楽しかったから」
「そう」
奏が手をパタパタと振ると、珠樹の目がスウッと細められた。
「どうしたの?」
「いえ。何でも」
沖田が珠樹の異変に気付き、訝しげに尋ねた。
「じゃあ、私達はこれで」
「奏さん」
立ち去ろうとすると、珠樹に呼び止められた。
「はい?」
「また今度お会いしたら、一緒にゆっくりお茶しましょう?」
振り向いた先には、優雅に微笑んだ珠樹の姿があった。
「はい!!」
「じゃあ、またね」
今度こそ歩みを進めた。
「またね……僕の妹」
珠樹の口からそんな言葉が出たことに気付きもせずに。
もう一つ、珠樹とは別の視線が、奏の姿を追っていたとは知らずに。