誠-巡る時、幕末の鐘-
幼い頃一度だけ、何故か高い熱を出してみんなを心配させた。
「そう……ですね」
「人間は命に制限がある。……だからこそ、病気になっている人を見ると放っておけないんだよ」
「……」
奏は俯いてしまった。
いつもは高く結わえてある髪も、今日は下ろしていたので、顔を隠してしまう。
井上はフワリと奏の頭を撫でた。
顔を上げると、いつもの優しい笑顔の井上がいた。
「動くなとは言わないよ。君は自由を好む子だからね」
井上はだけど、と言葉を続けた。
「みんなに心配するなと言って、無理をしては駄目だ。心配するのは当たり前なんだから」
仲間だからね、と笑う井上を見て、奏はニコリと笑った。
「分かりました。井上さん、料理ぐらいは土方さん達…やらせてくれますかね?」
「料理かい?それは大歓迎だと思うよ。昨日は大惨事だったからね」
昨日の有様を思い出して、クスクスと笑った。
奏もその笑顔を見て、笑顔を見せた。