誠-巡る時、幕末の鐘-



「じゃあ、私は道場に行ってくるよ。…あぁ、そうそう」




井上は立ち上がり、数歩足を進めた所で振り返った。




「どうしたんです?」


「これは預かっておくよ。念のためにね」




さっきまで奏が持っていた木刀を握った。




「私も心配だからね」




そう言って今度こそ道場に足を進めた。


奏は肩を竦めて、買い出しに行くべく玄関に向かった。




「奏……。お前、また」


「もう治りましたよ。ほら」




玄関から入ってきた土方とバッタリ会った。


またお小言を言われる前にと、土方の手を自分の額に当てた。




「ん。確かに熱はねぇみたいだな」


「だから買い出ししてきます」


「買い出し?」


「夕飯の」




奏はどうやら昼過ぎまで寝ていたらしい。


先程鐘が鳴った。




「夕飯のって…お前作れんのか?」


「当たり前です。これでも女ですから」


「分かった。なら誰か連れていけ」


「大丈夫ですよ。一人で」


「病み上がりが何を言っても無駄だ」




土方は広間にいた沖田と斎藤を連れてきた。


永倉、原田、藤堂は二日酔いらしい。



< 407 / 972 >

この作品をシェア

pagetop