誠-巡る時、幕末の鐘-
「じゃあ、私は道場に行ってくるよ。…あぁ、そうそう」
井上は立ち上がり、数歩足を進めた所で振り返った。
「どうしたんです?」
「これは預かっておくよ。念のためにね」
さっきまで奏が持っていた木刀を握った。
「私も心配だからね」
そう言って今度こそ道場に足を進めた。
奏は肩を竦めて、買い出しに行くべく玄関に向かった。
「奏……。お前、また」
「もう治りましたよ。ほら」
玄関から入ってきた土方とバッタリ会った。
またお小言を言われる前にと、土方の手を自分の額に当てた。
「ん。確かに熱はねぇみたいだな」
「だから買い出ししてきます」
「買い出し?」
「夕飯の」
奏はどうやら昼過ぎまで寝ていたらしい。
先程鐘が鳴った。
「夕飯のって…お前作れんのか?」
「当たり前です。これでも女ですから」
「分かった。なら誰か連れていけ」
「大丈夫ですよ。一人で」
「病み上がりが何を言っても無駄だ」
土方は広間にいた沖田と斎藤を連れてきた。
永倉、原田、藤堂は二日酔いらしい。