誠-巡る時、幕末の鐘-



―――土方の自室




「何だと?」




土方が沖田と斎藤の報告に眉を潜め、顔をしかめた。




「奏そっくりの少年でした」




二人は珠樹の女装を初めて会った時に見破っていた。


だが、個人の趣味だと思い、それに触れなかったのだ。


いつもの奏ならば気付いたはずだが。




「前にもその珠樹って奴に会ったんだろ?何でそん時に報告しなかった」


「すみません」


「誰でもかれでも報告してたら大変なことになりますよ?で、どうするんです?」




沖田が土方に尋ねた。


いつにもまして真剣な顔だ。


それを見て、土方も怒る気を無くした。




「そいつは最後の夕食と言ったんだよな?」


「はい」


「明日そいつが接近してくる可能性が強い。奏から離れないようにするぞ」


「分かりました」


「奏ちゃんから離れちゃ駄目って土方さんに言われるなんて意外だな」




沖田は壁に寄りかかり、薄く笑った。




「節度は守れ」


「はいはい」




斎藤に釘をさされ、片手を上げて応じた。




外はまだ雨が降り続いている。



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