誠-巡る時、幕末の鐘-
「ありがとうございます。近藤さん」
奏は目を細め、仄かに笑った。
土方はそれを横でジッと見ていた。
「どうしたんですか?」
奏が土方の視線に気づき、首を傾げた。
「いや。何でもない」
そう言うと、再び箸を進めだした。
「変なの。あぁ、烝」
奏は立ち上がり、山崎の前で腰を下ろした。
「運ぶの手伝ってくれてありがとう」
「いや、あれくらい。何でもない」
奏が広間に運んでいる時、丁度通りかかった山崎が手伝いを申し出たのだ。
「よぉし!!いい感じに酔ってきたし、いっちょあれやるか!!」
「おっ、左之!!待ってました!!」
永倉達の周りには、もう何本も熱燗の容器が転がっている。
原田がいつも酔った時にある腹芸を見せだした。
以前、切腹をした時の傷跡らしい。
「よく生きてたね」
「だから死にぞこね左之助なんだぜ!?」
藤堂が奏の呟きに手を叩いて囃(ハヤシ)ながら答えた。
その顔も大分赤い。
明日またこの三人は二日酔いに苦しむだろう。