誠-巡る時、幕末の鐘-



珠樹は黙ってそれを見ていた。




「おい、あんた。奏を一体どうしようってんだ?」


「返答次第じゃ容赦しねぇぜ」




二人は自分の得物に手を伸ばした。




「別に?……邪魔しないでよ」




珠樹はクスリと笑ったかと思うと、殺気を飛ばしてきた。




「邪魔?やっぱりお前……奏を殺すつもりか!?」


「そんなこと俺達がさせねぇ!!」




二人は声を荒げた。


市中なので大勢の通行人が何事かと気にしている。




「殺す?………短絡的だね。返してもらうだけ」




辺りに強い風が吹いた。


目を開けると珠樹の姿はなかった。




「返してもらう?どういうことだ?」


「分からねぇ。……くそっ!!奏を見失っちまった!!」


「ひとまず俺達も屯所に戻ろう」


「あぁ。……なんてこった。話がややこしくなってきたぜ」




空はそんな二人の鬱々とした心とは反対に、うっすらと雲が太陽にかかるだけだった。



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