誠-巡る時、幕末の鐘-
「奏……。僕だよ」
今だ少女の格好をしているので、その一人称もおかしく感じる。
だが、奏も気付いていた。
珠樹が男だということに。
化粧を袖で落とし、鬘(カツラ)を取る。
一瞬の後には、すっかり奏と同じ格好になっていた。
髪の長さ以外は全て同じだ。
「彼方兄上達が言ってたことも嘘じゃなかったんだ。本当に忘れてる」
珠樹は目を細め、俯いた。
「彼方……兄上?何故あなたが兄様のことを兄上と呼ぶの?」
彼方は奏の兄だ。
幼い頃に生き別れた。
目の前の少年も自分と同じく兄だと言った。
その事実に、目をすがめ、刃先を僅かに下ろした。
「だって僕達の兄上でしょ?……たとえ血がつながっていなくてもね」
「………え?」
最後の一言は吐き捨てるように口にされた。
奏は衝撃の発言に目を見開いた。
刃の切っ先はもう珠樹にはない。