誠-巡る時、幕末の鐘-
「珠樹。話し過ぎだよ」
一人の青年がすぐ近くの木から顔を出した。
その姿と顔を見て、奏は目をさらに見開いた。
「彼方……兄様」
昔、彼が好んで着ていた黒に蝶の柄が入った着流し姿で立っていた。
彼方は奏にニコリと笑いかけると、珠樹に咎めるような視線を投げた。
「兄様、今までどこに?……いえ、それよりも」
口を閉じ迷った後、再び開いた。
「珠樹が言っていることは本当ですか?」
彼方は答えない。
笑みを浮かべたままだ。
だが、その沈黙こそ何よりの肯定だった。
「兄様も……私を欺いていたの!?」
語調が荒くなる。
しかし、なおも彼方は笑顔を崩そうとしない。
奏は彼方に詰め寄った。