誠-巡る時、幕末の鐘-



「奏。落ち着きなさい」




スッと刀を奪われてしまった。


ごく自然に。


だが、奏はそれどころではなかった。




「ねぇ!!どういうこと!?」




必死に彼方の顔を見上げ、着物を揺する。


珠樹はその姿を黙って見つめていた。




「その前に珠樹の記憶を戻してあげたら?」




彼方が珠樹の方を指差した。


珠樹は彼方を鋭く睨んだ。




「記憶?……だって…」


「奏は夢を見ない?誰かと一緒にいる夢を」




彼方が優しく問いかける。


その言葉には確信的なものがあった。




「夢……ある。あれは……痛っ!!」




奏の頭を激痛が走った。


思わずしゃがみこんでしまった。




「奏!!」




珠樹が一目散に駆け寄ってくる。


肩に手を置き、彼方を睨んだ。




「兄上!!なんて無茶を!!」


「だけど、そうでもしないと奏は思い出せないよ?記憶を封じたのは、奏自身なんだから」


「だけど!!」




珠樹はギリッと歯を噛みしめた。


瞳には、明らかに怒りの色が見てとれる。



< 440 / 972 >

この作品をシェア

pagetop