誠-巡る時、幕末の鐘-
そして奏に手を差し伸べた。
奏がその意味を計りかねていると、薄く笑った。
「場所を移そう。長い話になるからね」
「……分かった」
奏は頷いたが、その手は取らなかった。
代わりに珠樹の手をギュッと握る。
珠樹も同じくらい握り返した。
「……じゃあ、行こうか」
「どこに?」
「僕達が今住んでいる所だよ」
横から答えが返ってきた。
「一緒に住んでるの?」
「そうだよ」
珠樹が僅かに顔をしかめて言った。
昔は仲が良かったのに、と不思議に思った。
だが、長い年月が経っているし、男同士だとこういうこともあるのだとあまり気に留めなかった。
後に、その理由が明かされるまで、そうだと信じて疑わなかった。
もう、戻れない所まで来ていた。