誠-巡る時、幕末の鐘-
「………珠樹」
顔を上げると、思いの外奏は近くにいた。
手を伸ばそうとしたが躊躇い、ゆっくり下ろそうとした。
これ以上拒絶されると、自分は壊れてしまう。
記憶を失われたと聞いた時も、我を忘れてしまったのに。
奏本人に拒絶されると、どうなってしまうか分からない。
そんな躊躇いが珠樹の心をよぎったためだ。
「珠樹、私はあなたを信じるよ。珠樹はいつだって私に嘘はつかなかった」
下ろしそうになった珠樹の手をとり、自分のそれと重ねた。
その顔には昔と寸分違わぬ笑みが浮かべられている。
「奏……本当?」
「もちろん!!私、珠樹に嘘ついたことないよ?」
「うん……。そうだったね」
珠樹もやっと表情を緩めた。
珠樹は自分の疑いが晴れてホッとしていたが、奏はまだ聞かなければいけないことがたくさんあった。