誠-巡る時、幕末の鐘-



奏の剣捌きは、こういう状況でなかったならば、ずっと見ていたいと思えるほどだった。


まるで舞っているかのように刀を操っている。


奏の瞳はいつもの黒曜ではなく、虚ろで光がない。




「………くっ!!」




珠樹の脇腹に刃がかすった。


それでも血が吹き出る。




「奏……。僕がまた分からなくなったの?」


「………」




珠樹は悲痛な表情を浮かべているが、奏は全く反応しない。


それどころか、新たに刃を繰り出してくる。




「………っ!!!!」




奏の刀が珠樹の刀を飛ばした。


奏がそのまま刀を振り下ろそうとした時……




「奏。珠樹を傷つけるなんて奏らしくないよ」




彼方がそれを防いだ。


奏の瞳が僅かな光を帯びた。




「奏……。どうしちまったんだよ」


「珠樹を向こうに運んで」




彼方は呆然としている土方達の方を見ずに言った。




「しっかりしろ!!」


「奏……」




珠樹も土方の声が聞こえていない。


なおも奏から視線を外そうとしない。


沖田はそれを何か思い出すように見ていた。



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