誠-巡る時、幕末の鐘-
奏は立ち尽くしていた。
泣き叫ぶ子供の声、血を流して倒れている者達の姿。
あの日、夕焼けと血と炎の赤に染まった雷焔の里の光景が脳裏に浮かび、重なった。
「……うっ…」
近くで呻き声が聞こえ、すぐさま駆け寄った。
「今、治しますから」
「よ、寄るな!!」
頭から血を流した男の目には、明らかな恐怖の光が宿っていた。
「でも……治さなきゃ」
血が流れてるから、と続けるはずだった奏の言葉は男の悲痛な叫びにかき消された。
「お前のせいで、何の罪もない奴がこんな目に合ってるんだ!!今すぐここから出ていけ!!」
奏は心臓に刀を突き刺されたような錯覚を感じた。
何も言い返せなかった。
「星鈴、後は僕達がやる。応援も呼んだから彼らと一緒に帰りなさい」
「………」
奏はその言葉に返事を返さなかった。
ただ、フェルナンドが治療するのをぼんやりと見ていた。
「……っ!!珠樹は!!?」
奏は急に目を見開き、立ち上がった。
まだ珠樹の姿を見ていない。
永倉と原田も。
沖田達のことを考えると、走りださずにはいられなかった。