誠-巡る時、幕末の鐘-
辛うじて残っていた建物の中に、怪我人が運ばれている。
そこに珠樹はいるらしい。
「奏……戻ったんだな」
「……鈴。あの……」
「まぁ、待て。珠樹なら、向こうの突き当たりを右に曲がってすぐの部屋だ」
奏の言葉を片手で制し、治療の手を止め、珠樹の居場所を指差した。
「……分かった」
奏は鈴の目を真っ直ぐ見て、足をそちらに進めた。
「おい」
「何だ?」
「奏から目を離すなよ?」
奏の後をついていこうとした永倉と原田が、鈴に呼び止められ、振り向いた。
鈴の顔は厳しい。
……これは助言ではなく、警告だった。
「早く行ってやれ」
「あぁ」
「お前も頑張れよ」
永倉、原田の間にはもう鈴への警戒心は薄れていた。
それというのも、二人が珠樹を運んで来てからずっと見ているが、一度も手を休めない。
力にも限りがあるはずだ。
なのに自分の身を省みず、負傷者の手当てに尽力している。
永倉と原田の励ましの言葉に、鈴も僅かに口元に笑みを浮かべることで返した。