誠-巡る時、幕末の鐘-



「………」




奏は目的の部屋に辿り着いたものの、なかなか入れずにいた。


自分は珠樹を傷つけてばかりだという負い目が、珠樹に会うことを躊躇させているのだ。




「ほら、奏」


「行ってやれ」




後から追いかけてきた永倉と原田がそっと肩を押す。


奏が拒否の声をあげる間もなく、永倉によって戸が開けられた。


中央に珠樹が寝かされている。


部屋の中は一人が寝るには丁度いい広さだった。




「……奏…?」




珠樹は部屋に来客が来たことを感じ、瞑っていた奏と同じ黒曜の瞳を開き、彷徨わせた。


奏の姿を見つけると、まるで子供のように無邪気に布団の中から手を出して、奏の方に伸ばした。


迷子がやっと母親を見つけたかのように。


幼子が自分を愛してくれる者を慕うように。


その瞳は、驚く程澄んでいた。



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